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山口地方裁判所 昭和31年(レ)22号 判決

控訴人 村川覚介 外一名

被控訴人 小野田農業協同組合

主文

原判決中控訴人等に関する部分を取り消す。

被控訴人の各請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人等代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用、認否は、次に附加するの外、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

被控訴代理人において、「控訴人村川覚介が本件消費貸借成立当時において被控訴組合の組合員であつたかどうか不明である。」と述べ、

控訴人等代理人において、「控訴人村川覚介は右当時被控訴組合の組合員でなかつた」と述べた。

立証として当審において、被控訴代理人は、甲第二、三号証を提出し、乙第一号証の成立を認め、控訴人等代理人は乙第一号証を提出し、証人得利スミ江、同植杉朝満、同浜戸正一の各証言並びに控訴人本人村川覚介、同得利万一の各尋問の結果を援用し、甲第二号証の成立は不知、同第三号証は成立を認める、と述べた。

理由

被控訴組合の主張によれば、被控訴組合の本訴各請求は、要するに被控訴組合がその主張の如く控訴人村川覚介に対し控訴人得利万一連帯保証のもとに金員を貸し付けたことを原因として、控訴人等に対し連帯して右金員及びその遅延損害金の支払をなすべきことを訴求するものであることが明白である。然しながら、被控訴人の本訴各請求は、以下説示の理由により失当として排斥さるべきものであると判断する。

農業協同級合法に基き制定された農業協同組合(以下単に組合という)は組合員の協同により農業生産力の増進と併せて組合員たる農民の経済的、社会的地位の向上を図ることを目的とする公益法人であつて、営利を目的とするものでなく(農業協同組合法第一条、第八条)、それが故に国家の後見を受け(例えば同法第四十四条第二項、第五十九条)、特にその運営に関し厳重な行政監督の方式が採用されているのである(例えば同法第九十三条以下)。従つてその行い得る事業は同法第十条の規定するところに限定されていて、これに違反して事業を行つたときは行政庁より組合の解散を命ぜられ(同法第九十五条の二)、更に組合の役員は過料或は刑罰を科せられることとなつている(同法第百一条、第九十九条)。そこで組合の行い得る諸種の事業のうち、金員の貸付事業についていえば、組合は組合員に対し組合員の事業又は生活に必要な資金を貸し付けることを基本事業とする(同法第十条第一項第一号)。尤も同法第十条第一項第十二号の規定するところによれば、組合は同法第十条第一項第一号乃至第十一号所定の基本事業に対する附帯事業として客観的にみて該基本事業を遂行するに直接且つ不可分的に附随すると認められる事業を行うことも容認されているから、組合員以外の第三者に対する金員貸付が右に謂う附帯事業の範囲内に所属すると客観的に認定され得るような場合は格別、広く組合員以外の一般人に対し金員の貸付をなすことは組合の本務とするところでなく、金員の貸付は単に組合員のみを対象としてなすことを本務とするのである。但し同法第十条第三項に特例が設けられてあつて、同条項の規定する限度において、定款の定めるところにより組合員以外の者に組合の施設を利用させることができる旨規定され、而して組合員以外の第三者に金員を貸し付ける行為は同条項に謂う「組合の施設を利用させる」場合に該当することは勿論であるから、特に定款に規定されている場合に限り、同条項の規定する限度において組合員以外の第三者に対し金員を貸し付けることが許されるが、定款に定めがない場合には組合員以外の第三者に金員を貸し付ける行為は、組合の行い得る事業の範囲外の行為として、前記の如き組合の本質に徴すれば、組合の目的の範囲を逸脱した無効なものと解するを相当とする。これを本件についてみるのに、被控訴組合が農業協同組合法に基いて設立された組合であることは弁論の全趣旨に徴し各当事者間に争がなく、而して被控訴組合の主張する金員貸付が被控訴組合の目的たる事業の範囲内にあるとのことは被控訴組合においてこれが主張立証の責を負うものと解すべきところ、控訴人村川覚介が昭和二十七年七月十七日当時被控訴組合の組合員であつたとの事実を認めるに足りる証拠は何らなく、却つて原審及び当審における控訴人本人村川覚介の供述によると、控訴人村川覚介は右当時から被控訴組合の組合員でなかつたことが窺われるのであるが、被控訴組合の定款にその組合員以外の第三者に対し金員の貸付をなし得る旨規定されていることについてはこれを認むべき証拠がなく、且又被控訴組合主張の金員貸付が農業協同組合法第十条第一号乃至第十一号所定の基本事業に附帯する事業の範囲内に属することを認め得べき資料は全然ない。然らば、被控訴組合主張の如く仮令被控訴組合と控訴人村川覚介との間に消費貸借が成立したとしても、右消費貸借は被控訴組合の目的の範囲内に属するということができないのであるから、右消費貸借は被控訴組合の行為としては無効であるといわなければならず、従つて、被控訴組合主張の如く、仮令控訴人得利万一が控訴人村川覚介の被控訴組合に対する右消費貸借に基く債務につき連帯保証債務を負担する旨約したとしても、前記の如く主債務者たる控訴人村川覚介の右消費貸借が無効である以上、連帯保証人たる控訴人得利万一の連帯保証契約もその附従性からして無効であるといわなければならない。

以上の理由により被控訴組合は控訴人得利万一に対し右連帯保証契約に基きその主張するような債権を取得する由がない。

よつて被控訴組合の控訴人等に対する本訴各請求はすべて失当として棄却すべく、右と異る趣旨に出た原判決は不当であるから、これを取り消し、民事訴訟法第三百八十六条、第八十九条、第九十六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 菅納新太郎 松本保三 田辺康次)

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